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この大学が選ばれる理由 

 
「大学全入時代」に突入したといわれる07年入試。

定員割れで経営が厳しい大学がある一方、一部の有名大学に受験生が集中している。
より好みさえしなければ大学に入れる時代に、受験生に「本命視」される大学とは!? 

大学進学者調査第2弾は、本誌独自の指標「本命率」から“選ばれる大学”の理由を探る。

 
  今年5月、神奈川県内の約60高校の教員が、早稲田大学の西早稲田キャンパスに一堂に集まった。
「各県の先生方にもご説明する予定ですが、まずは何をおいても神奈川県から始めさせていただきました。神奈川の優秀な生徒さんは、地理的にどうしても日吉のほうに行ってしまう場合が多いですから。しかし、将来的には東急東横線から西早稲田まで直通の地下鉄が運行する予定ですし、これからはぜひ早稲田にも目を向けていただきたい!」
 
  約2時間、早稲田のPRが熱烈になされたという。揺るぎない「私学の雄」の座を誇ってきた早稲田も、「大学が選ばれる」時代を迎え、優秀な学生を確保するのに必死なのだ。「日吉のほう」とは、横浜市港北区日吉にキャンパスを持つ慶應義塾大学のこと。

  永遠のライバルともいえる早稲田と慶應だが、受験生は両大学をどう選んでいるのか。
 
 ●併願の対決では慶應大学に軍配

 「早稲田は全国区の大学で、地方国立大と併願する地方在住の受験生が多い。東京で一人暮らしをするコストも高いですから、地方の国公立大に合格すると、そちらに進学してしまう傾向があるのでは」(早稲田の恩藏直人・入学センター長)
 
もう一つ、おもしろいデータがある。
併願した二つの大学の両方に合格した受験生は、どちらに進学したか? 大手予備校、河合塾の進学先判明者のデータを基にグラフにしたのが、40ページからの併願対決「十二番勝負」である。大学同士の対決に加え、学部単位での対決も、一部を抜粋して掲載した。こちらはまさに“選ばれた大学”がどちらだったかを端的に示しているといえよう。
「早稲田大vs.慶應大」を見てみると、早稲田が優勢な学部の組み合わせもあるものの、大学全体では慶應に軍配が上がる。
「大学改革やCOEプログラム(研究拠点育成のため、文部科学省が研究資金を重点配分する制度)に力を入れるなど、慶應の地道な努力が受験生に伝わって、いいイメージにつながっているのではないでしょうか」(慶應の西村太良・常任理事)
 
  90年に慶應がSFC(湘南藤沢キャンパス)を開設して大学改革に着手して以降、慶應優位の傾向が続いており、早稲田は巻き返しに懸命だ。創立125周年にタイミングを合わせ、今年から文学部や理工学部を再編した。志願者数は前年比で13%も増加したという。

 ●地方の国公立大対抗で早慶一致

  「以前は早稲田というとマンモス校で『大量生産』というイメージだったが、最近では講師1人と学生4人で授業をする超少人数語学教育など、きめ細かい教育に力を入れている」(恩藏氏)

  さぞや早慶間では火花を散らす戦いが繰り広げられているのかと思いきや、実はここ数年、両大学がタッグを組んで地方での広報活動に取り組むようになった。
 
「早慶が合同で説明会をしたほうが、両大学を対比することで、魅力がより受験生や保護者に伝わるメリット」(慶應の目時弘子)
05年からは東大など国立大とも合同実施する「主要大学説明会」に参加している。国公立大志向の強い地方で、早慶に目を向けてもらうきっかけになるという。

「早慶がライバル視しているのは、もはや私立大ではなく地方の国公立大です」
 
そう説明するのは、『大学入試の戦後史』(中公新書ラクレ)などの著書がある、大学受験の国語専門塾「鶏鳴学園」代表だ。
確かに、地方の国公立大を蹴って都内の私立大に進学するという受験生も少なくないようだ。九州地方の公立高校の教諭はこう話す。

 「九大を蹴って早稲田に進学する生徒もいる。東京で学ぶことの魅力や、就職に有利なイメージがあるのではないでしょうか。ただ、景気が悪化してからは国公立大志向が強いですね」

これまで地方の国公立大に進学していた優秀な学生を、いかにして呼び込むかが早慶ともに今後の課題である。前出の西村常任理事も、「法人化されたことで、いまや国立大も同じ土俵にのっている」と国立大との競争を視野に入れている。こうした状況を解説する。

 「地方では、旧帝大に手が届かなければ、次の選択肢は地元の国公立大という傾向が強い。『地元の国立大以外に早慶という選択肢がありますよ』と認識させたいという部分で、早慶の利害が一致しているのです」
 
  ところで、最難関の国立大である東大京大の本命率はほぼ100%に近い。だが、こうした難関大に合格しても進学しない受験生が少数だが存在する。もったいなくも感じるが、どこに進学したのだろうか。本誌は追跡をしてみた。
目につくのは東大の理科1類(主に理・工学部系)や理科2類(主に理・農・薬学部系)、京大では理学部など、理系の合格者が多い。
大阪の私立高校の進路指導担当教諭は、

「男子生徒が東大の理科1類を蹴って防衛医科大学校に進学しました。本人の希望で、迷っている様子はありませんでした。東大卒の優位性が必ずしも大きなプラスになる時代ではありませんし、本人の意志も固かったようです」

と打ち明ける。神奈川県の私立高校の教諭も続ける。

「うちの生徒は東大の理科2類を蹴って、慶應医学部に進みました。理科3類(主に医学部)という選択肢もありましたが、臨床を学びたいという志向が強い場合は、研究志向の強い理科3類は進路として適切でないこともあります」
 
このように東大を蹴る生徒は医学部を進路選択しているケースが多い。なかには京大法学部を蹴った合格者もいる。東京にある私立中高一貫校の教諭はこう話す。
 
「東京を離れたいという思いがある生徒でしたが、下宿する生活費の問題や、中高時代に培った友人と会えなくなることから結局断念し、慶應法学部に進学したようです」
 
いずれにせよ最難関大に合格できる学力がある生徒なのだから、うらやましい選択ではある。

 「もちろん本人の希望が最優先ですが、学校としては東大に進学する生徒が多いほうが実績になっていいんですけどね」
さて、入試難易度では早慶クラスに続く首都圏のMARCH(明治・青山学院・立教・中央・法政)。ここでは上智を抜いて、早稲田と同率で並んだ青山学院が頭一つ抜け出す結果になった。
 
併願対決では、難易度が高い上智に軒並み負けているのだが、青学の仙波憲一副学長はこう自信を示す。

 「本命率が高いのは第1志望の受験生が多い証拠ですから、うなずけます。実は今年は予想を上回る入学手続き者がいて、履修科目を急きょ増やすなど対応に追われるほどでした。本学の魅力が浸透した成果だと喜んでいます」

こうした兆候は以前からあったという。夏に開くオープンキャンパスでは、青山キャンパスだけで1万人超の高校生が2年連続で押し寄せた。青山という立地から、華やかな都心イメージがある大学だが、4年間で将来像がつかめるコース別カリキュラムの創設など、教育の中身の向上に注力してきた。志願者は前年比約2千人減だったが、まさに「青学で学びたい生徒」の獲得に成功したようだ。

 「受験生にも『一生懸命勉強する生徒がほしい』と、はっきりと言います。第1志望の学生が多いとキャンパスが活性化するからです。大学は学生が満足する教育プログラムを用意することが最大の責務だと考えています」(仙波副学長)
 一方、15年ぶりに志願者が10万人を超えた明治。今春の入試では、全学部共通の試験内容で複数学部の出願が可能な「全学部統一入試」を初めて導入した。さらに札幌、仙台、名古屋、福岡と全国4都市の地方試験も実施した。複数学部に出願する場合、2学部目以降は受験料を割り引く制度を設けるなどの効果によって、志願者が約1万8千人増えたという。
 本命率ではMARCHクラスで最下位となったのだが、「複数回の受験が可能で志願者も増えたのだから、本命率という観点からは何とも言えない」と坂本恒夫・入学センター長は動じる気配がない。

 「むしろバブル期以降、志願者が減っていることに危機感がありました。本学の学生構成比を見ても、首都圏の学生数が約7割になるなど、一極集中が進んでいたのです。全国型の大学として『方言の聞こえる大学』を取り戻したかった。地方試験の実施と全学部統一入試をセットで導入した効果で、一極集中は解消に向かいつつあると思います」
 
  一方、西日本の事情はどうか。近畿地方を代表する関関同立(関西・関西学院・同志社・立命館)では、同志社が法政、明治を抑える格好となり、首都圏の大学の優位に食い込んだ。
 
「関西の私立大という枠組みではなく同志社は全国区の大学」(入試課)と自負するように、併願対決でも関西の私立大間では敵なしといった様相だ。主要企業の就職率の高さや、司法試験などの資格試験の合格者の多さなどからもわかるように、「関関同立では頭一つ飛び抜けた大学」として認知されている。

 ●改革進む同志社、先行する立命館

  ところが、京都や大阪など地元の高校からは「同志社は伝統というブランドイメージに頼って改革が遅い」と指摘する声も多い。入試センターの吉田文哉・入試広報係長はこう反論する。
 「大学改革は目立つことをやればいいというものではない。しっかりした議論を交わし、改革の中身が熟成していることが大事なのです」約50年間、従来の6学部体制を維持してきた同志社だが、実際、ここ数年の変化はすさまじい。04年に政策学部を設置したのを皮切りに、05年に社会学部と文化情報学部、08年には生命医科学部とスポーツ健康科学部を新設し、工学部を理工学部に改組する計画だ。さらに大学関係者によると、09年に心理学部(仮称)の新設も検討しており、これが実現すると12学部体制となって学部数は倍増するという。
 
 「外からは見えづらかったかもしれませんが、学内ではしっかり先を見通していたと思います。1986年に開いた京田辺校地(京田辺市)も、土地はすでにその20年前に確保していました。その後、文科省の設置基準があって新しい学部を作りたくても実現できなかった歴史もあります。近年の改革は機が熟したということであり、老舗もたまには新製品を出すんですよ」(吉田係長)
 
 一方、同じ京都市内でライバルの関係にある立命館は「改革のデパート」と称されるほど、大学改革で先行した。92年にはセンター試験の導入、地方の入試会場を設置するなど、いち早く入試改革に取り組み、今春は芸術系大学を除くと関西では初となる映像学部を新設し、志願倍率約19倍と人気を集めた。08年には薬学部と生命科学部を新設する。矢継ぎ早に繰り出す改革は全国的に注目を浴び、01年から4年連続で志願者が10万人を突破、07年も約9万9千人を集めている。
 
だが、本命率では関関同立の中で最下位に甘んじた。入試改革の結果、複数回受験が可能になり、ある学科では最大12回も出願することが可能なことから、分母ののべ合格者数が大きく増えてしまうためでもあるが、こうした入試方式には「受験生の便宜を図るというよりは、受験料稼ぎと批判されても仕方がない」という指摘もある。

 ●18歳人口の激減、選ばれる時代に

 入試センターの山本修司次長は、こう説明する。

 「本学の大学改革の根底にあるのは『多様性』と『全国性』です。地方試験は1956年にすでに実施しており、08年には全国30都市に広げる計画です。現在でも、近畿圏以外から入学する学生は約半数に上ります。入試が多様化しているのも、本当に立命館で学びたいという意欲のある学生がほしいからです。量と質は必ずしも矛盾しません。多くの人に大学の魅力を知ってもらうことが大切なのです」

 各大学が改革にしのぎを削る背景には、少子化による18歳人口の激減がある。92年の約205万人をピークに、08年には約124万人と約6割にまで減少する見込みだ。

「少子化が与えるインパクトは大きい」と強調する河合塾教育研究部の神戸悟チーフは、各大学の現状をこう解説する。
 「まさに『いす取りゲーム』のように、早く座らないといすがなくなるという感覚です。ただし、現在の改革は入試制度の変更や学部学科の新増設などが中心。これはカンフル剤のようなもので、効果は短期的です。ですが、競争力がある今のうちに他大学に圧倒的な差をつけて、指定席を確保したいという思惑が改革を加速させているのです」
 
 「大学全入時代に学生を選べるのはMARCHクラス、ぎりぎり日東駒専(日本、東洋、駒沢、専修)レベルまでです。それ以下の大学は入試を課す意味がなくなるわけですから、むしろ学生を受け入れた上で入学後の4年間でどういう教育を施すかを提示すべきです。豊かな時代になった今、東大生までもが将来像を描けなくなっています。こうした高校生に対する教育が大学に用意されていないことが大きな課題です。この実態を踏まえ、4年間の到達目標と将来像をきっちり示すことができるカリキュラムを提供する。つまり、生き残る大学とは、時代に合った教育力のある大学なのです」
 
(本誌・白井裕子、坂田一裕 イラスト・中村純司)
 
                                     (2007/7/6朝日新聞より抜粋)

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